ぬか漬けが美味すぎる件

ぬか漬けを始めて一年ちょっと経った。きゅうり、にんじん、大根、蕪。想像通り美味い。ここまでは誰でも予想がつく話だと思う。

想定外だったのは、一年やってみて一番美味かったのが野菜ではなかったことだ。ぬか床が水っぽくなるのを防ぐために放り込んでいた、水抜き係の乾物である。

ぬか床は勝手に水っぽくなる

野菜を漬けると、塩で水が引き出される。当たり前だがその水はぬか床に溜まる。漬ければ漬けるほどぬかがゆるくなり、味がぼやけ、放っておけば傷む。ぬか漬けの日常のメンテは、ほとんどがこの水との戦いだ。

定石はいくつかある。キッチンペーパーを沈めて吸わせる、溜まった水をスプーンで汲んで捨てる、足しぬかしてかさを戻す。どれも水は減るが、代わりに何かを失う。ペーパーは吸って捨てるだけ。水を捨てれば旨味も一緒に出ていく。足しぬかは、塩加減と味付けを作り直すところからやり直しになる。

水を乾物に吸わせると、乾物のほうが美味くなる

そこで乾物を漬ける。干し椎茸、昆布、切り干し大根。これがよく水を吸う。乾物が吸える範囲でなら、ぬか床の水分は下がるし捨てるものも出ない。

その引き上げた乾物が美味い。想像していた「まあ食べられる」の水準ではなかった。

干し椎茸は水で戻すのと違って、ぬかの乳酸の酸味と一緒に戻る。生の椎茸とも、普通に戻した椎茸とも違うものになる。噛むと出汁と酸味が同時に来る。切り干し大根は歯応えが残ったまま酸っぱくなって、そのまま刻めば箸休めになる。昆布はやわらかくなってぬめりが出るので、これは細切りにしてその場で食べ切ってしまう。

考えてみれば当然で、乾物はもともと水を吸って戻るために乾かしてある。そこに吸わせているのが、野菜の水分と塩と乳酸が混ざったぬか床の汁だ。ただの水で戻すより美味くならないほうがおかしい。

刻んで冷凍しておくと、次の料理の仕込みになっている

引き上げた乾物は刻んで冷凍しておく。平らにならして凍らせておけば、使うときに折って落とすだけでいい。

一番よく使うのはチャーハンの具だ。凍ったまま放り込んで炒めれば、ぬか床由来の酸味と椎茸の出汁が全体に回る。他にはごま油でさっと炒めるだけでも成立する。

水を抜くために放り込んだものが、そのまま次のチャーハンの具になっている。逆に言えば、ぬか床のメンテをサボると具が切れる。面倒な作業の見返りがここまで直結していると、サボる気が起きない。

水抜きとは関係ない変わり種

ここからは水の話と関係ない。乾物ほどの驚きはなかったが、俺が野菜以外で漬けてみて良かったのは、ゆで卵、プロセスチーズ、アボカド、しっかり水切りした豆腐だ。この4つはおかずというより完全につまみである。

ゆで卵は固茹でにする。半熟だとぬか床の中で崩れて悲しいことになる。鶉の卵でも同じように美味い。プロセスチーズは表面がぬかの香りをまとって、そのまま日本酒に合う。アボカドは熟しすぎているとやはり崩れるので、少し硬いくらいで漬ける。豆腐は水切りが甘いと自分が崩れるうえにぬか床へ水を持ち込むので、重しをして半日は置いてから漬ける。

野菜の変わり種では、茗荷、セロリ、プチトマト、長芋あたりが良かった。蕪の葉、大根の葉、セロリの葉のような葉物も漬かるが、葉物は水がよく出るので、乾物での水抜きが追いつかなくなる。そこまで行ったら、さっき退けたはずの足しぬかに戻る。味を作り直す手間はかかるが、葉物を大量に漬けたときだけは例外だと割り切っている。

肉や魚もぬか漬けにしてから焼くと美味い。ただしこれは本体のぬか床から必要な分を取り分けて、別容器でやったほうがいい。生ものの匂いと汁が本体に移ると、戻すのが難しい。

運用は思ったより雑でいい

始める前は毎日かき混ぜる必要があると思っていたが、冷蔵庫に入れておくと発酵がゆっくりになるので、週に一度で足りる。使っているのはスーパーや無印で売っている、袋を開けてすぐ漬けられるタイプのぬか床だ。それで一年回っている。

一度だけダメにした。真夏に常温で置いておいたときだ。冷蔵庫に入れておけばどうにでもなる、というのはその失敗から学んだ。

味付けとして入れているのは、山椒の実、唐辛子、昆布、干し椎茸、かつお節を少量、それとカラシ粉。山椒の実が入ると香りが一段変わるので、手に入る時期に入れておくといい。昆布と干し椎茸がここにも出てくるが、味付け用に入れっぱなしにするぶんと、水を吸わせて引き上げるぶんは別に入れている。

塩分は多い。漬物である以上そこは避けられないので、一度に大皿で食べるものではなく、俺は毎日数切れずつつまむことにしている。

結び

始めた動機は単に漬物が好きだからで、水抜きの都合で乾物を漬けたのも、ぬか床を守るための消極的な理由だった。それが一年経ってみると、椎茸と切り干し大根を引き上げる瞬間が一番楽しみになっている。

きゅうりも蕪も美味い。ただ、面倒を引き受けさせるために放り込んだものが一番美味くなるというのは、始める前には想像していなかった。ぬか床は水が出る側の面倒を持ち込んでくるが、その面倒を乾物に押しつけると、押しつけた先が勝手に美味くなって返ってくる。そういう都合のいい循環が冷蔵庫の中で回っている。

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