課金が始まる前のAIに、成果物でなく『環境』を作らせた話
最近のAIモデルの入れ替わりには、正直ついていけていない。数日おきに新しいモデルが出て、少し前まで最強だったものがすぐ型落ちになる。前に書いた記事で触れた、公開からわずか3日で遮断されたモデルの騒動もその延長にある。
そんな中、自分が入っているプランでは、Claude Fable 5が週の利用上限に無料で含まれるのは2026年7月7日までと決まっていた。それを過ぎても使えなくなるわけじゃない。ただ、それ以降は使った分だけ別途課金される形に変わる。無料の枠があるうちに、何に使うか。
普通に考えれば、今一番難しいタスクに投入するのが正解だろう。難しい記事を書かせる、複雑なリファクタをやらせる。でも、それをやって出てくるのは記事1本、コード1本という「成果物」でしかない。成果物は、書いた瞬間からただのテキストになる。無料枠を使い切っても、同じ仕事を別のモデルに頼めば、たぶん同じくらいの質で出てくる。
じゃあ何に使えば、課金が始まった後まで得をするのか。はっきりした答えはないまま、ひとまず外部脳を触らせてみることにした。
外部脳を、丸ごと棚卸しさせた
普段からObsidianのvaultを外部脳にして、過去の記事で書いた通りセッションを跨いで記憶を引き継がせている。今日直したバグは今日で終わるが、外部脳の設定は明日以降もずっと同じ形で使い続ける。Fable 5に丸ごと診断させることにした。
指示は「今の外部脳、もっと整理できるところはある?」というだけの雑なものだった。返ってきた診断は、思ったより具体的だった。
- persona.md(作業の要約ノート)の鮮度チェックが機能していなかった。「起動時にも自動で再生成する」と設定ファイルには書いてあったが、実際にそれをやる仕組みはどこにもなく、9日間そのまま放置されていた。プロンプトに書いただけの自動化は、黙って失敗する
- 廃止したはずのフォルダに、書き込みルールだけが残っていた。あるフォルダをやめて別の場所に一本化したはずが、「ここに書け」という指示文の消し忘れが残っていた。書いた瞬間に情報が行方不明になる穴だった
- ニュース自動収集フォルダが無限に増えていた。毎日2本ずつ溜まるダイジェストが、検索のノイズになっていた
- 「なぜそう決めたか」の記録が薄かった。判断が毎日の作業ログに埋もれていて、後から追いにくかった
指摘一つひとつは小さい。でも、どれも今日直せば、明日別のAIに変わっても同じ形で残るものばかりだった。ここでようやく、最初の問いへの答えが見えてきた。成果物(フロー)でなく、環境(ストック)を作らせればいい。
直し方を「機械」と「公開コード」に寄せた
直すときに意識したのは、Fable 5との今の会話だけに閉じないことだった。
鮮度チェックは、指示文をいくら丁寧に書き直しても同じ穴が開く。そこでセッション開始のタイミングで動く小さなシェルスクリプトを一本足した。ノートの日付が7日を超えていたら、勝手に警告が出る。これで「書いてはあるのに動いていない」という状態は、少なくとも機械的には起きなくなった。
ニュースの肥大化も、その場しのぎで消すのでなく、収集スクリプト側に「何日分残すか」を設定できる機能として実装し、公開しているobsidian-vault-searchなどのリポジトリにPull Requestで入れた。ついでに検索ツール側にも「このフォルダは対象から外す」という設定を足した。どちらも自分専用のハックでなく、リポジトリの機能として残る。無料枠が終わってFable 5に課金がかかるようになっても、mainブランチに残ったコードは残る。
「やらないと決めた理由」も記録する
同じ流れで、ローカルで動くLLM(Gemma)に軽微な作業を任せられないかも検討した。手元のMacにも4Bクラスのモデルはもう入っている。ただしメモリは8GBで、そもそも動かせる規模には天井がある。
その前提を踏まえても、結論は見送りだった。理由は2つ。一番コストがかかっている場所(普段の対話や定期実行タスク)にはそもそも差し込めないこと。そして弱いモデルの出力は検品コストの方が高くつき、これまで自分が出してきた「レビューが律速」という結論と矛盾すること。
ここで大事なのは、「見送った」という結論そのものより、その理由を書き残したことだ。次に同じ思いつきをしたとき(それが自分でも、別のAIでも)、同じ検討を最初からやり直さずに済む。採用した機能だけでなく、不採用にした理由も、環境の一部になる。
提案までさせてみたら
一通り直し終えたところで、ついでに「この作業、ブログのネタになるんじゃないか」と聞いてみた。返ってきた案が、今読んでいるこの記事の骨子そのものだった。
外部脳を診断したのもFable 5、直したのもFable 5、直した記録を材料にネタを考えたのもFable 5。そして今、その材料を使ってこの記事を書いているのも同じFable 5だ。あと数日で無料枠が終わり課金対象になるモデルに、その後も残る変更をさせて、その変更の記録をもとに記事まで書かせている。入れ子になっている。もっとも、この記事自体は結局また「成果物」だ。無料枠が終わった後も残るのは、記事でなくその元になった診断・修正の記録の方になる。
でも、それほど不思議なことではない気がする。次にどのモデルを使っても、hookは動くし、公開リポジトリのコードも動く。今回のやり取り自体もVaultに残っている。しばらくして別のAIがこのVaultを開いたとき、参照するのはこの記事でなく、その裏にあるDecisionsのノートの方だろう。「なぜGemmaを使わなかったか」を書き残したのと同じように、この作業自体も「なぜ環境を作らせたか」として残る。
結び
3日で消えたAIの記事を書いたときは、依存先が消えるリスクを外側から眺めていた。今回はその裏返しで、もうすぐ無料では使えなくなる(課金対象になる)ことが分かっているAIに対して、こちらから何を頼むかという話だった。
最強のモデルほど、使い道を記事やコードの「成果」に振りがちになる。でも成果は次のモデルでも作れる。書き換わらずに残るのは、hookのコード一本、リポジトリに入ったPull Request一本、そして「なぜやらなかったか」まで書いたDecisionsノート一枚の方だ。無料の枠が見えているなら、その枠の中でしか作れないものでなく、枠が終わった後も残るものに使った方がいい。次にどのAIが来ても、同じ穴でつまずかせずに済む。